4.充血する

  

病名
症状
原因
(その他)

結膜性充血

急性カタル性結膜炎

充血、目脂、腫脹、異物感、灼熱感、痛痒感

細菌感染

刺激

一般的な結膜炎

感染らない

流行性角結膜炎

強い充血、流涙、目脂少、眼瞼腫脹

アデノウィルス8型

はやり目、伝染する

咽頭結膜熱

充血、流涙、目脂、発熱、咽頭炎

アデノウィルス3型

プールを介し、小中学生に多発する、感染する

急性出血性結膜炎

充血、球結膜に出血、目脂、激しい異物感、眼瞼腫脹

エンテロウィルス70型

アポロ11病、伝染する

部分的充血

フリクテン性結膜炎

角膜縁に水様少結節、部分充血、まぶしさ、異物感

過敏反応

再発しやすい

カタル性角膜潰瘍

部分充血

自覚症状はあまりない

結膜炎の経過中に起こる

翼状片

鼻側から角膜に向け三角形に充血

不明(外的刺激)

進行性、野外労働者に多い

上強膜炎

紫色の部分充血、疼痛、異物感、流涙

結膜、リウマチ等

再発しやすい

毛様充血

角膜実質炎

まぶしさ、流涙、疼痛、視力障害

先天性梅毒

虹彩炎、強膜炎、緑内障を併発

匐行性角膜潰瘍

強い充血、眼痛、頭痛、視力障害

細菌感染

慢性涙のう炎のある人に好発。「つき目」

ブドウ膜炎

毛様充血、まぶしさ、流涙、眼痛、視力障害

細菌感染、結核、リウマチ、糖尿病など

 

急性カタル性結膜炎  流行性角結膜炎  フリクテン性結膜炎    翼状片     ブドウ膜炎

 

目が赤くなるのは最もよくみられる目の症状のひとつです。「目が赤いから結膜炎だ」と考えられがちですが,一枚に決めつけるのは危険です。もちろん結膜炎の場合が最も多いわけですが,目の奥の失明につながるような重篤な病気の場合もあるからです。また結膜炎といっても,伝染性のものかそうでないのかが非常に重要なことです。そこで「目が赤い」という症状をもう少しくわしく分けてみましょう。まず最初に出血と充血を区別してください。出血は球結膜(しろ目)の下の血管が破れ出血したもので,部分的にすき間なく赤くなります。これは球結膜下出血といわれ,見た目ほど驚くような病気ではありません。充血は球結膜の血管を流れる血液の量が多くなるため血管が太くなっている状態です。充血の状態もよく見ると,球結膜全体に充血が広がり,充血の程度が角膜より離れるほどひどいもの(結膜性充血),球結膜のある部分だけが充血しているもの,角膜のまわりはど充血がひどく角膜から離れるほど弱くなるもの(毛様充血),があります。

結膜疾患の場合は結膜充血が起こり、虹彩毛様体の疾患の時は毛様充血が起こる

 

(1)結膜性充血

まぶたを裏返してみると,まぶたの裏側の結膜も充血しています。このような充血は結膜炎で起こります。結膜炎では伝染力の強い流行性角結膜炎,咽頭結膜熱,急性出血性結膜炎の三つについては周囲への感染防止に特に注意が必要になってきます。

 

急性カタル性結膜炎(conjunctivitis catarrhalis)

急に発病し,結膜充血,目やにといった症状のある最もありふれた結膜炎です。ほとんどが細菌感染によるもので,抗生物質などの点脹でかんたんに治ります。汚ない手で目を触ったりせず,清潔を心がけることが予防につながります。

慢性結膜炎(conjunctivitis chrronica)

充血,目やにが軽度で,経過が長く慢性的な炎症になっているものをいいます。やはり細菌によるものですが,眼瞼縁炎などの他病を併発していることもあります。また学校検診等で診断される学童の慢性結膜炎は,濾胞性結膜炎といわれるものが多くみられます。まぶたの裏の結膜に小さなぶつぶつ(濾胞)があり,慢性炎症のみられるものです。

結膜濾胞症(conjunctiva folliculosa)

結膜濾胞症という濾胞は扁桃肥大やアデノイドのある子どもに体質的にできやすく,炎症がなければ治療の必要はありません。

流行性角結膜炎(EKC,epidemic keratoconjunctivitis)

一般に「はやり目」といわれるもので,主としてアデノウィルス8型によるウイルス性の結膜炎です。感染力が強く,感染してから1週間前後の潜伏期間をおいて突然発病します。まず結膜が真赤に充血し,涙がよく出ます。次にまぶたが腫れ,ゴロゴロした異物感もあり,しばしば耳下腺リンパ節が腫れることもあります。片眠が先に発病することが多く,数日後にもう片方の目にも発病してきますが,比較的後の目の方が軽くすみます。おとなと子どもでは経過症状が違い,幼児では,結膜の裏に偽膜という白濁色の膜のようなものができ,まぶたの腫れは非常に強くなります。この膜ははがれるときに出血するので,目から血が出たとおどろきますが,心配しなくてよいものです。おとなでは,症状がおさまりかけた頃に角膜の表面に点状の濁りがたくさんでき(点状表層角膜炎),視力が悪くなります。この角膜の濁りはすぐには治りませんが,いずれは完全に治り,視力も元に戻ります。結膜炎は2〜3週間で治りますから,それ自体はたいしたことはないのですが,その間は充血,流涙などの症状が強く,うっとおしい日が続きます。特効薬がないため,混合感染を防ぐ意味で抗生物質,点状表層角膜炎に対して副腎皮質ホルモンやビタミンB2の点眼を使用しますが,症状の軽減はそれほど期待できません(むしろ周囲への感染防止に努めることが大切になってきます。感染防止のための注意等は次項)。

咽頭結膜炎(PCF,pharyngo conjunctival fever)

主にアデノウイルス3型によるウイルス性の結膜炎で,症状は流行性角結膜炎とはぼ同じですが,一般に軽症です。しかし,全身症状を伴うのが特徴で,喉の痛み(咽頭炎)を起こしたり,熱が出たりします。夏季プールを介して流行することが多く,「プール熱」などとよばれることもあります。したがって,小中学生に多くみられます。1〜2週間で治りますが,これも特効薬はなく,対症的な治療が主となります。やはり,周囲への感染防止が大切になってきます。

急性出血性結膜炎(AHC,acute hemorrhagic conjunctivitis)

これも,エンテロウイルス70型によるウイルス性の結膜炎ですが比較的新しい病気です。アメリカの月ロケット,アポロ11号が打ち上げられた1969年に西アフリカのガーナで大流行し,インドネシア,シンガポール,フィリピン,台湾を経て,1971年秋に西日本に上陸し,翌1972年東京に発生してから,現在も全国の各地域で散発的に流行しています。そのために「アポロ病」ともよばれています。感染力は強く,感染して1〜2日の潜伏期をおいて,急激に発病します。両眼に激しい異物感と痛みを起こし,まぶたが腫れ,充血とともに球結膜に大小の出血を起こすのが特徴です。7〜10日で治ゆしますが,これも特効薬がなく,流行性角結膜炎と治療法は同じになります。周囲への感染防止が大切です。

 ウイルス性結膜炎の感染防止のための注意事項

(1)接触感染なので,目やまぶたには触れないようにし,他人が触れるようなものには努めて触れないようにする。

(2)学校などは医師の許可があるまで休む。

(3)外出はできるだけ控える。

(4)よく手を洗い,十分な流水で洗い流す。ウィルスは消毒薬に強いため,あまり効果は期待できないが,70gのイルガサンを500ccの70%消毒用アルコールに溶解した消毒液で手を洗うのも一つの方法である。

(5)タオルはもちろん別々にし,風呂は最後に入り,あとすぐ栓を抜いて湯舟は水をかけてよく洗い流す。

(6)目薬は絶対他人に使わせない。

(7)ウイルスは熱に弱いため,タオルやハンカチなど使った物で煮沸できるものは煮沸消毒するのがよい。

(8)学校では,ウイルス性結膜炎であることを養護教諭に報告する。検診時では学校医にも報告しておく。

 

 

1.流行性角結膜炎型(アデノウィルス8型、19型感染)

7日目頃から子供では偽膜ができ、大人では角膜炎が起こる。

2.咽頭結膜熱型(アデノウイルス4型、3型感染)

3.出血性急性結膜炎型(エンテロウィルス70型感染)

球結膜に出血が起こる

(注)

●流行性角結膜炎の感染力が最も強いのは発病後1週間で,その後,日ごとに感染力は低下していきます。

●急性出血性結膜炎の場合は発病後5日で,その後は上と同じように感染力は低下するといわれています。そのため,感染後少なくとも1週間前後は他人に感染する危険性があるために休む必要があります。もっとも,既に感染している場合でも,人によっては症状の程度が異なるため,休む期間が少し異なることはあります。

感染経路図

 

 

 

(2)結膜の部分的充血

充血が球結膜の一部分に限られているときは,その充血のしかたで比較的容易に診断することができます。

フリクテン性結膜炎(conjunctivitis phlyctaenulosa)

球結膜,特に角膜縁(くろ目としろ日の墳)に水疱様小結節(フリクテン)ができ,充血はこれを頂点として扇型に広がっています。症状としては,まぶしく,涙が出てきます。角膜上にフリクテンができることもあり,この場合はフリクテン性角膜炎といわれ,幼児あるいは青少年の女子,特に腺病質で偏食をする場合に多くみられます。副腎皮質ホルモンの点限がよく効き,すぐに治りますが,再発しやすく,角膜上のフリクテンはまれに潰瘍を起こしてくることもあります。予防としては皮膚を渚常にし,全身的に強壮をはかり,偏食などしないことです。

 

カタル性角膜潰瘍(ulcus corneae catarrhale)

結膜炎の経過中に続発して起こってくるもので,角膜周辺部に三日月状の浅い潰瘍ができ,その近くの結膜が充血します。自覚的な症状はあまりなく,すぐに治るものがほとんどです。

 

翼状片(pterygium)

鼻側の球結膜が先を角膜に向け,三角形状に角膜上に進んできたものです。なぜそうなるのかはいまだにわかっていませんが,屋外で働いている人に多くみられるので,外界の刺敷が原因ではないかと推測されています。進行性のもので,瞳孔の上にまで進むと視力障害を起こしてきますから,そうなる前に手術をして取り除きますが,しばしば再発することがあります。場合により放射線をかけて治療を行なうこともあります。

 

上強膜炎(episcleritis)

これは結膜の充血でなく,その下の強膜の炎症で,炎症を起こしたところが部分的に腫れて充血します。充血の色が青色〜紫色で,その部分をまぶたの上から押さえると痛みがあるのが特徴です。自覚的には,痛み,異物感,流涙,まぶしさがあります。結核やリウマチ,その他全身痛が原因で起こすことが多く,副腎皮質ホルモンの点眼や注射で比較的短期間に治り予後も良好ですが,再発しやすい病気です。しかし,まれに強膜の深層の炎症であることもあり,これは強膜炎(scleritis)といわれ,上強膜炎より治りにくく慢性的に再発をくり返し,ブドウ膜炎を併発したりします。原因となっている病気の治療が大切になってきます。

 

 

(3)毛様充血

角膜の周囲の充血がひどく,角膜から離れるほど弱くなりますがまぶたの裏の結膜に充血はみられません。充血の色は青〜紫色に近く,結膜の表面だけでなく深い部分に充血があるように見えるため毛様充血といいます。この充血は,角膜,強膜,ブドウ膜の炎症で起こるため,かなり重い病気もあり,「目が赤いから結膜炎だろう」などと放っておくと,取り返しのつかないことにもなりかねません。十分な注意が必要です。

 

角膜実質炎(keratitis parenchymatosa)

大部分は先天性梅毒によるもので,15〜25歳で発病し,約6カ月過ぎるとおさまります。両眼性ではじめの2〜3週間はまぶしさ,流涙,痛みがあり,視力も低下してきます。毛様充血があり,角膜は周辺部から濁りがでてきます。その後濁りは角膜全体に及び,視力はかなり低下し,まぶしさは一層強くなります。これを過ぎると徐々に症状はおさまり,濁りも消えていきますが,多くは角膜に混濁をのこしてしまいます。必ず虹彩炎を伴い,ときとして緑内障,強膜炎を起こすこともあります。

 

匐行性角膜潰瘍(ulcus serpens corneae)

角膜に傷があるとき,それに細菌が感染して角膜が化膿したものをいいます。稲や麦の穂で角膜を突いて小さな傷ができ,これに細菌が感染して起こすことが多いので俗に「つき目」ともよばれます。匐行性とは,ある方向に進行していくという意味です。慢性涙のう炎があると,目にいつも細菌がいるわけですから角膜に傷ができると非常に感染しやすいわけです。かなり強い毛様充血がみられ,自覚的には目が非常に痛み,頭痛も起こり,視力はかなり低下します。感染するとまず角膜の中央部に黄白色の浸潤を伴う潰瘍ができ,周囲および深部に向かって進行し,前房には膿がたまり,最後には,角膜に穴があいてしまいます(角膜穿孔)。早期に抗生物質などによる適切な治療がなされれば,角膜にうすい混濁を残すだけで予後は良好ですが,時期を失すると予後不良で,角膜に強い混濁(角膜白斑)を残したり,全眼球炎を起こし失明することもあります。

 

ブドウ膜炎(uveitis)

 

毛様充血を起こす病気の代表的なものがこのブドウ膜炎です。ブドウ膜とは虹彩,毛様体,脈絡膜をまとめてよぶ言い方です。したがって,詳しくは虹彩炎,毛様体炎,脈絡膜炎と分けてよばれることもあります。また,虹彩炎と毛様体炎は常に同時に起こるため,虹彩毛様体炎と一括してよばれます。脈終膜炎ノも,実際にはすぐ内側にある網膜にも炎症が広がっている場合がほとんどであるため,網脈絡膜炎とよばれることもあります。一般的には,前部ブドウ膜炎(虹彩毛様体炎)と後部ブドウ膜炎(脈絡膜炎)という分け方がされています。原因は,外傷や手術創などからの細菌感染で起きるものと,全身病,あるいは身体の他病巣から病原体ないし毒素が転移して起きるものとがあり,たとえば結核,梅毒,リウマチ,糖尿病,サルコイドーシスなどがそれにあたります。自覚的な症状には,まぶしさ,それに伴う流涙,痛みがあり,視力低下も起こしてきます。後部ブドウ膜炎だけの場合は,そのような症状はありませんが,網膜もおかされるため,視力低下や視野欠損が起こり,物がゆがんで見えたり(変視症),小さく見えたり(小視症),色覚異常が起きてきます。治療は,局所療法として散瞳させ,虹彩を安静に保つことが大切で,その他副腎皮質ホルモン剤などを使用します。その他全身療法,原因療法なども併せて行ないますが,もちろん症状,原因などによってその方法はかわってきます。かなり治療の長引く病気ですから,休養・安静を保ち,医師の指示に従うことです。急性に経過するものは,一般に予後良好ですが,慢性のものや,再発をくり返すものでは角膜変性,瞳孔異常,白内障,禄内陣などの合併症をきたし,高度の視力低下や失明に終わることが少なくありません。

 (サルコイドーシス)

サルコイドーシスという全身病は,現在でもはっきりした原因がわかっていない難病です。しかし一種の感染性肉芽腫症であることは確かで,リンパ腺,肺,皮ふ,眼などに病変があらわれます。眼症状は本症の約1/3にあらわれ,そのほとんどはブドウ膜炎です。昔はよく,結核と間違われていた病気です。

 

          

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