全身病と目

全身病のなかにはいろいろな眼疾患を伴うものが多く,特に眼底に病変が現われるものでは,高度の視力障害を引き起こしたり,失明にまで至ることが少なくありません。このような場合は,全身病に対する治療が大切になってくることはいうまでもありません。また,眼底の状態から,その全身病を発見したり,進み具合を診断することもできます。そこで,ここでは目と関係の深い全身病をいくつか取り上げてみました。

 

糖尿病(diabetica)

糖尿病による眼疾患は,成人における主な失明原因の一つであり,欧米ではその第1位になっているほど重症になりやすい注意すべき病気です。網膜に症状が現われるものを糖尿病性網膜症といいます。はじめに,網膜に毛細血管癒ができ,続いて網膜上に出血を起こしてきます。同時に白斑が多く現われ,また出血をくり返します。こうなるとかなり強い視力障害がでてきます。そして,硝子休出血も起こり,ついには網膜剥離を起こして失明してしまう場合もあります。このはかに,糖尿病が原因で白内障,ブドウ膜炎などが起こることもあります。このような眼疾患は,糖尿病を内科的にコントロールしていくことで,ある程度進行を止めることができます。また,糖尿病にかかって10年以上経っても,軽症でとどまり,よくコントロールされている場合は重症にならないようです。逆に糖尿病を長い間放置していたり,若いときから糖尿病がありコントロールがむずかしい場合は重症になることが多くみられます。早期からの十分な治療に併せて自己管理が大切だといえるでしょう。

 

高皿圧症(hypertension)

高血圧にともなって限底に変化が起こったものを高血圧性網膜症といい,その軽度のものを高血圧性眼底といいます。網膜の細動脈が狭窄し,網膜の栄養障害を起こし,出血をきたすことがあります。これらの症状は,高血圧症の程度によって違ってきます。軽度のものでは,あまり視力に影響はありませんが,視力障害を自覚する場合は,高血圧症もかなり悪い状態だと考えてよいでしょう。よく,内科からの依頼で高血圧症の患者さんの眼底検査をすることがあります。これは,眼底の状態から高血圧症の程度が推定できるからです。というのも,眼底の血管は,人間の体の中で直接に見ることができる唯一の血管だからです。

 

ベーチェット病(Behtet's disease)

ベーチェット病は日本では15〜40歳の男子に発病することが多い病気で,特に昭和30年以降に急増して現在もかなり多くみられます。最近では女性に増えているようですが,的確な治療方法がなく原因不明の難病です。眼症状としてはブドウ膜炎を起こし,眼底にも網膜の浮瞳,混濁,出血,白斑などの所見を認めます。全身的にはアフタ性口内炎,外陰部潰瘍,皮ふ発疹などを伴います。長期にわたって,このような症状が出現したり消失したり何度もくり返し,視力は徐々に低下し,失明してしまうことも少なくありません。

 

性病

淋菌の場合,淋菌性結膜炎を起こしてきます。症状は,まぶたが強く腫れたり,膿のような目やにがでたり,放置すれば角膜穿孔して失明します。昔はこれが原因で失明した人も多かったようですが,ペニシリンがある現在では,失明にまで至ることはなく,患者数も減っている病気です。先天性梅毒では角膜実質炎やブドウ膜炎(網脈絡膜炎)が起こり,後天性梅毒ではブドウ膜炎(虹彩毛様体炎)を起こすことが多いようです。

パセドウ病(Basedow's disease)

甲状腺の疾患で,眼球突出の症状が現われることはよく知られています。このほかにも,のどぼとけの近くが腫れたり(甲状腺瞳),脈が速くなったり(速脈)する症状なども現われます。眼球突出に伴い,まぶたの開きが大きくなりまばたきの回数が減ったりすることもあります。バセドウ病そのものの予後は良好ですが,眼球突出の症状が元通りになることはむずかしく,ときには進行することもあるようです。このような場合,まぶたが閉じにくくなり,兎眼性角膜炎を起こしてきます。この進行に対して的確な治療法は現在のところありません。

 

危険な目の病気

 目の病気やケガは,「見る」という機能を備えた目に起こるものですから,「視力が悪くなるのではないか」「見えなくなってしまうのではないか」といった不安がつきまといます。もちろんすべての病気がそのような結果を引き起こすものではありませんが,「大したことはないだろう」などと安易に考えて放置していたために取り返しがつかなくなってしまった例も少なくありません。「大したことはないかもしれないが・・・?」と眼科医を受診するような用心深さも大切なことだと思います。しかし,できるだけ早く適切な珍断と処置をしなければ,取り返しのつかない結果になる病気がいくつかあります。早急に眼科専門医を受診する必要のある病気を述べてみます。

  

外傷(打った,当たった,物が入ったなど)

目に直接でなく,頭部外傷によっても視神経管が骨折していることもあります。また,化学薬剤(酸・アルカリ)が目に入ったときは,応急処置が予後に大きく影響します。とりあえず水道水でよいので5〜10分ほど十分に洗眼してください。特にアルカリの場合は,応急処置で予後が決まるといっても過言ではないでしょう。

 

淋菌性結膜炎

参照 

クレーデ法

赤ちゃんは生まれるとすぐ,目薬をさされます。これをクレーデ法といい,フランスの産婦人科医クレーデが1883年に始め,以来各国で行なわれ,日本でも義務づけられています。これは,新生児淋菌性結膜炎(新生児膿漏眼)を予防するものです。この病気は,昔は子どもの失明の大きな原因として恐れられていましたが,クレーデ法の普及と抗生物質の発見により,ほとんどみられなくなりました。目薬は,1〜2%硝酸銀水を1滴点眼することになっていますが,最近では抗生物質で代用することが多いようです。

 

匐行性角膜潰瘍

参照 

 

眼窩蜂窩織炎(cellulitis orbitae)

倦怠感,発熱,頭痛,食欲不振,悪心嘔吐などの全身症状に伴い,目の症状として,まぶたが開かなくなるほど腫れ,球結膜は充血,浮瞳を起こし,眼球突出,眼球運動障害も起きてきます。原因は,外傷,急性涙のう炎,副鼻腔炎(蓄膿症),口腔や歯牙の炎症,急性伝染病などで,早期に抗生物質などの薬物治療や切開手術をしますが化膿が頭蓋内におよぶと生命の危険があります。

 

急性ブドウ膜炎

参照 

 

急性緑内障

参照 

 

網膜剥離

参照 

 

網膜中心動脈閉塞症

30分以内に血行が回復しないと,視力の回復はのぞめません。

 

急性球後視神経炎

急激に高度の視力低下をきたし,失明することもあります。

 

網膜芽細胞腫(retinoblastoma)

生後2週間から3歳までの乳幼児に多く発生する代表的な悪性眼内腫瘍です。ひとみが猫の目のように黄白色に光るのに気付いて受診することが多いようです。はじめ眼底に小さな腫瘍ができ,それがだんだん大きくなっていきます。さらに進行すると脳や全身に転移して死亡します。ひとみが黄白色に光って見える状態では腫瘍が硝子体中に広がっており失明していますから,転移を防ぐため早期に眼球摘出を行ないます。両眼に発生する例も約30%ありますから,他眼に十分注意し早期発見に努める必要があります。早期に発見されれば,視力が保たれることも少なくありません。

 

          

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