目の疾患(症状別、疾患別) 

 

1.まぶたのはれ,発疹,かゆみ

 

病名
症状
原因
(その他)

麦粒腫

発赤、腫張、疼痛

主にブドウ球菌による急性化膿性炎症

属に「ものもらい」「めばちこ」等とよばれる。

霰粒腫

無痛の腫瘤

マイボーム腺の慢性肉芽性炎症

腫瘤があまり大きくなると眼球を圧迫し、視力障害をおこすこともある。

眼瞼膿瘍

強い発赤、腫張。

発熱、眼痛、頭痛。

外傷創、手術創からの感染等

食欲不振、睡眠障害

急性涙のう炎

内眼角から下方n頬部へかけての発赤、腫張圧痛、発熱、疼痛、流涙。

慢性涙のう炎に続発した化膿菌による涙のう周囲組織の炎症

副鼻腔手術(蓄膿の手術)後、鼻涙管開口部の閉塞により起こすことがある。

発疹

眼瞼ヘルペス

数個の小水疱

軽度のかゆみ、痛み

単純ヘルペスウィルス

口唇ヘルペス、角膜ヘルペスを伴うことがある。

眼瞼鼻根部、前頭部に小水疱群生。頭痛。三叉神経痛

帯状ヘルペスウィルス

角膜帯状ヘルペス、虹彩毛様体炎、強膜炎、眼筋麻痺を伴う。

伝染性軟属腫

数個の円形米粒大の腫瘤

ウィルス感染

俗に「水イボ」と呼ばれる。幼少時に多く、成人はまれ。

かゆみ

眼瞼縁炎

痛痒感、発赤、腫張等

刺激、体質

細菌感染

一般に慢性の炎症、反復再発しやすい。

 

 

(1)まぶたのはれ

 
まぶたの皮ふは最も薄く,組織も粗雑なため,ちょっとしたことでもよく腫れてきます。うつ伏せで寝たり,泣いたりした後にまぶたが腫れるということはよく経験することです。ボールが当たる,殴られる等の外傷による場合に顕著に現われますが,もちろん病気によって腫れてくることもあります。

麦粒腫

(hordeolum)

まつ毛の根もとに細菌が感染し炎症を起こしたもので,俗に「ものもらい」「目ばちこ」などとよばれています。初期は痛みだけで腫れは目立ちませんが,化膿が進むと赤く腫れて痛みます。治療は,抗生物質の眼軟膏や点眼薬,ときには内服も投与します。化膿が進めば自然にうみが出て治りますが,切開してうみを出すこともあります。不潔な手で目をこすったり,体の抵抗力が低下しているときにできやすいようです。くり返しできるようであれば,糖尿病がないかどうか一度尿検査をしておくほうがよいでしょう。

 

霰粒腫

(chalazion)

まぶたにある,涙の脂肪分を出すマイボーム腺がつまってしこりができたもので,上から押さえるとコロコロしたしこりに触れます。麦粒腫に外見上似ていることもありますが,痛みのないのが特徴です。ときに,そこに細菌が感染し炎症をおこす場合(急性霰粒腫)があり,そのときは痛みがでてきます。しこりが小さければ自然に吸収されることもありますが,徐々に大きくなってきたら.手術でそのしこりを摘出しなければなりません。しかし,最近ではしこりのまわりに副腎皮質ホルモンの注射をして吸収させる方法もあります。しこりが大きいのにかかわらず放置しておくと,しこりが眼球を圧迫し,角膜乱視を引き起こして視力障害を起こす場合もあります。

 

眼瞼膿瘍

(adscessus palpebrae)

外傷や手術などの傷口から化膿菌が感染したり,副鼻腔炎,むし歯など目の近くの病気が広がって起こるもので,まぶたが開かなくなるほど赤く腫れ,発熱,頭痛などを伴い食欲不振,睡眠障害さえ起こしてくることがあります。肺炎から転移することもあります。早期に切開してうみを出すなど適切な処置をとらないと,炎症が目の奥へ進んだ場合に眼窩蜂巣織炎などを引き起こすこともあり,要注意の病気です。

 

急性涙のう炎

(dacryocystitis acuta)

内眼角部から頬にかけて,つまり,涙のうのある部分が広く赤く腫れ,かなり痛みます。慢性涙のう炎のある場合で,涙のう内の化膿菌が周囲組織に出ることによって起こります。抗生物質による治療が主になりますが,手術療法をとることもあります。これも炎症が目の奥へ進む場合があり,要注意の病気です。

 

 

(2)まぶたの発疹

まぶたに発疹,ぶつぶつができたという場合はウィルス感染による場合が多いものです。手でこすったり,つぶしたり,かさぶたをとったりすることは病気を広げ,悪化させることになりますから十分注意してください。

 

眼瞼ヘルペス

(herpes palpebrae)

単純ヘルペスウィルスによるものと帯状へルペスウイルスによるものとこつに分けられます。前者は,熱性疾患など全身の抵抗力が低下した際に多く発症し,幼児,思春期の子どもによくみられます。数個の小水疱がまぶたにでき,ときに結膜洩胞を生じ,角膜へルペスを伴うことがあります。まぶたの小水疱は1〜2週間で治ります。後者は三叉神経の第1枝の支配領域にはげしい頭痛とともに多数の小水疱ができます。まぶたに限らず,額や頭にもできますが,顔の右か左かどちらか半分にだけ出るのが特徴です。3〜6週間で治りますが瘢痕が残ります。約40%に角膜へルペスが現われ,虹彩毛様体炎などの合併症を伴うこともあります。

 

伝染性軟属腫

(molluscum contagiosum)

俗に「みずいぼ」「百いぼ」などとよばれるもので,まぶたの周囲に米粒ぐらいの大きさの円形,乳白色,半球状の腫瘤ができ,つぶれるとチーズ状の黄色の物質が出てきます。それがつくと他にうつり,数が増えます。また,結膜につくと結膜炎をおこしてきますから,むやみにさわらないことです。治療は,たんねんにつまみ取り,ヨードチンキをぬっておきます。幼小児に限られた病気で特にアトピー性皮ふ炎のあるものに多くみられます。ごくまれに,成人女子にみられることもあります。

 

(3)まぶたのかゆみ

 

眼瞼縁炎

(blepharitis marginalis)

モラックスアクセンフェルド双杆菌

原因は,細菌感染,いろいろな刺激,体質によるものがあり,症状も個人差があります。かゆみの他に,まぶたのふちが赤くはれる,ただれる,カサカサするなどの症状が一般的で,よく目をこする幼少児にこの病気が疑われます。

アレルギー体質が原因になることが多く,そこに外的な刺激や細菌感染が加わり起こってきますから,反復再発しやすく,長期にわたる慢性的な炎症になっていることが多いようです。同時に慢性結膜炎を伴っていることもあります。細菌によるものは,抗生物質の眼軟膏,アレルギー性のものは副腎皮質ホルモンの眼軟膏で治療しますが,刺激を避けることが大切でしょう。

また,ビタミンB2・B6の欠乏によって細菌感染を引き起こすこともありますので,清潔に心がけ,野菜を十分とるようにしましょう。特にモラックスアクセンフェルド双杆菌が原因の場合は,口角びらん症を伴い,学校給食の食器を通して感染することがあります。

 

2.まぶた,まつ毛の異常

  
病名
症状
合併症
原因等

眼瞼内反症

眼瞼が内方に向かってわん曲し、内反している。

表層角膜炎、慢性結膜炎、角膜潰瘍など。

先天性。肥満。瘢痕性。老人性。乳幼児に多い。

睫毛乱生症

睫毛の配列、発育方向の不整。

同上

先天性。眼疾患、外傷による睫毛根部の瘢痕形成。

眼瞼外反症

眼瞼が外向きになり、眼結膜が露出している。

慢性結膜炎

禹眼性角膜炎など。

瘢痕性。顔面神経麻痺。老人性。

眼瞼下垂

まぶたが十分上がらない状態、または全く上がらない状態。

小児の場合は斜視や弱視

先天性。上眼瞼挙筋麻痺、筋無力症、など。

 

正常眼瞼   眼瞼内反症   眼瞼皮膚性内反症(睫毛内反症)   睫毛乱生症

 

眼瞼外反症   眼瞼下垂

 

まぶたの形態異常は,生まれつきのもの(先天性)と病気や外傷の後遺症のもの(後天性)とがあります。異常そのものは病気ではありませんが,それが引き起こす病気が問題となってきます。そのため,手術によってある程度正常な状態にしなければいつまでも病気が続くわけです。たとえば,小児に多い内反症は,まつ毛が常に結膜や角膜に触れているために慢性結膜炎や角膜炎を起こしてきます。それに対する治療はもちろん必要ですが,内反症を正常な状態にしない限り,根本的な治療とはいえないわけです。

 

眼瞼内反症

(entropium palpebrae)

まぶたが内方(眼球側)へ向かっていて,まぶたの縁の皮ふが内反している状態をいいます。陣毛内反症,皮ふ性内反症といわれることもあり,一般には「さかまつ毛」とよばれるものです。下のまぶた,とくに鼻側の下まぶたの内反が多く,乳幼児ではかなり多くみられます。これは,頬がふっくらしているため下まぶたの皮ふまで盛り上がってしまうからです。小児でも肥満児といわれる子どもは同じ理由から内反症が多くみられます。成長するにしたがって,顔が引きしまり,普通5〜6歳までに自然に治りますが,症状のつよいものは手術をして治すこともあります。また,小学校高学年になっても治らない場合は一度専門医に手術の相談をするほうがよいでしょう。その理由は内反症があると常にまつ毛が角膜や結膜に触れるためで,幼いうちはまつ毛も柔らかいのでそれほどの刺激とはなりませんが,成長とともに刺激が強くなり,傷をつけるようになるからです。そうなると,自覚症状として異物感,まぶしさ,流涙,視力障害などを訴えるようになり,慢性結膜炎,表層性の角膜混濁(くろ目の表面に白い濁りができる)などを引き起こしてきます。手術は入院するようなものではなく,一週聞くらいの通院ですみます。また救急で行なうものでもありませんから,休み中など手術の時期は相談するとよいでしょう。この他に内反症は,外傷や病気の後遺症としてなることもありますし,老人性のものもあります。これは皮ふがたるんでくるからです。いずれの場合にしても気をつけなければいけないのは,素人判断でまつ毛を切ったり抜いたりしないことです。かえって,太い,先のとがったまつ毛が伸び角膜をより傷つける結果になりかねないからです。

 

睫毛乱生症

(trichiasis)

まつ毛の並び方や伸びる方向が整っていないもので,症状としては,眼瞼内反症と同じように,まつ毛が結膜や角膜に当たるために異物感,まぶしさ,流涙,視力障害などが起こってきます。当たるまつ毛が少数のときには抜いたり,毛根を電気で焼いたりする治療を行ないます。これも,勝手にまつ毛を切ったり抜いたりしないよう注意してください。

 

眼瞼外反症

(ectropium palpebrae)

まぶたが外側にひっくり返っていて,まぶたの裏の結膜が露出している状態をいいます。つまりアカンベをしているような状態です。ほとんどは外傷や病気の後遺症ですが,老人性のものや顔面神経麻痺のときにもみられます。重症の場合はまぶたが閉じなくなることもあります(兎眼症)。症状としては,涙,目やにが出て,角膜に障害を起こすと,異物感やまぶしさ,痛みなどがあらわれます。治療としては手術がほとんどです。

 

眼瞼下垂

(blepharoptosis)

まぶたが十分開かない,あるいは全く開かない状態をいいます。先天性のものが多く,この場合は,しばしば家族性にあらわれ,たいていは両限性です。まぶたの聞き方が十分でなく,まぶたが瞳孔にかかると視力障害があるので,できるだけまぶたを上げようとして額にしわをよせ,眉をつり上げ,頭を後ろにひき,あごを出して物を見ようとする特有の見かたをします。瞳孔にまでまぶたが下がっていると,正しい視力の発達がそこなわれ弱視になる可能性が高いので,3〜5歳くらいの速い時期に手術をして治すのがよいでしょう。とくに片眼性の場合は弱視,斜視になりやすいので注意が必要です。後天性のものは,動顔神経や頸部交感神経の障害が原因で起こる場合や筋無力症の部分症状で起こる場合があります。これらは,原因となる病気の治療をすることで治りますが,回復がみられないときはまぶたを上げる手術をすることもあります。

メモ・重症筋無力症

1967年にトーマス・ウイリスが発表してから20年になります。これは,神経筋接合部における刺激伝達の障害です。運動神経からのインパルスが到達するとアセチルコリンがコリンエステラーゼによって分解されます。このコリンエステラーゼが異常に高いか,あるいはアセチルコリンの分泌が非常に少ないかによって,神経から筋肉への伝達が阻害されるわけです。これが重症筋無力症の病因といわれています。この症状は,目を動かす筋肉やまぶたの筋肉が犯されてまぶたが下がったり,眼球運動障害が起こります。自覚的には複視を訴えたりします。朝起きたときは,比較的症状が軽いのですが,疲れてくると症状が悪くなる疲労現象がみられます。子どもにおこると,日艮瞼下垂によって弱視になることがあります。眼筋だけが犯されるのを眼筋型筋無力症,全身の筋肉が犯されるのを全身型節無力症といいます。

 

 

3.涙がでる

  

病名
症状
原因
(その他)

流涙

慢性涙のう炎

流涙。膿汁流出。眼脂(目やに)

鼻涙管狭窄、閉塞

慢性結膜炎、急性涙のう炎

痛くて涙が出る

角膜上皮剥離

流涙、疼痛、まぶしさ、充血、異物感

コンタクトレンズ、外傷、異物混入

電気性眼炎

流涙、疼痛、充血、強いまぶしさ

開瞼困難

紫外線

電気溶接などによる

雪眼炎

スキーなどによる

  慢性涙嚢炎     角膜上皮剥離    電気性眼炎・雪眼炎

 

涙が出るという原因は大きく分けてこつの場合が考えられます。一つは,涙が多量に出るため,鼻腔への排出が間に合わず外にあムれ出る場合で,もう一つは,涙の出る量は普通ですが,排出管(涙道)がつまっていて外にあふれ出る場合です。前者は異物(ゴミなど)が入ったときやまぶしさを伴う病気(角膜や虹彩の炎症),流行性角結膜炎などのときに起こります。後者はほとんど慢性涙のう炎のときで,新生児では目やにのほうが目立つことがあります。

  

慢性涙のう炎

(dacryocystitis chronica)

涙が鼻にぬけるまでの通り道(涙道)は,順に,涙点→涙小菅→涙のう→鼻涙管→鼻腔となっていますが,この中の鼻涙管がつまったり,狭くなっているため,涙のうに涙がたまり,これに細菌が感染して起こってくる病気です。涙が出るという症状ばかりでなく,膿も出てきます。目の鼻側の涙のうのある部分を手で押さえると,涙点から膿が流れ出てきます。膿が出ることはとても危険で,角膜に傷があったときなどそこから化膿して旬行性角膜潰瘍を起こし,失明することもあるからです。治療は,涙のう内の膿を出し抗生物質で洗浄します。また現在ではあまり行なわれませんが,ブジーという細長い棒を涙点から差し込み鼻涙管を押し広げることをしますが,再発することが多く,手術をしないと治らない場合がほとんどです。また,新生児にみられることがありますが,この場合は特に新生児涙のう炎といいます。これは鼻涙管の出口に膜がはっていて(先天性鼻涙管閉塞)起こるもので,生後3週間を過ぎた頃から,片方の目に目やにがたまり,涙が出るといった症状があらわれます。結膜炎と間違われることがよくありますが,涙のう部を指で押すと膿が出てきます。新生児涙のう炎では,プジーを通すことで簡単に治ってしまうことがほとんどです。

 

角膜上皮剥離

(corneal abrasion)

角膜の上皮は外力に対して弱く,容易に傷がついたり,一部がはがれたりします。その程度によって症状の強さは変わってきますが,一般に,涙が出たり,異物感があったり,痛んだりします。目が開けられなくなることもあり,まぶしさも伴います。原因としては,ゴミなどの異物が入ったときに目をこすって起こることが多いようです。またコンタクトレンズのはめすぎでも起こします。予防としては目にゴミなどが入った場合,絶対にこすらず,目を閉じ涙で流すようにする,あるいは水道水で洗い流すことが大切です。またコンタクトレンズの装用上の注意もよく守ることです。角膜上皮は再生力が強く,小さな傷であれば2〜3時間で治ってしまうほどです。ビタミンB2はこの再生を促進させる働きがあります。しかし,傷から細菌感染すると治療が長びき,危険な場合もありますから,治療は感染予防の抗生物質の点眼も行ないます。痛みがひどい場合は一時的に点眼麻酔を使用することもありますが,これは角膜上皮再生を遅らせる働きがあるので,注意が必要です。なお,角膜上皮だけの傷はきれいに治りますが,傷がそれより深いと,傷あと(角膜混濁)が残ってしまいます。

 

電気性眼炎

(ophthalmia electrica)

 雪眼炎

 

どちらも,原因は紫外線の多い光線にさらされたときに起こってきます。電気熔接や人工太陽灯によるものを電気性眼炎,雪国やスキーによるものを雪眼炎と区別しています。光線にさらされて8時間くらいして急に目が痛くなり涙が出て,まぶしく,目を開いていられなくなります。球結膜も充血します。角膜の炎症や角膜上皮剥離を伴っており,治療は副腎皮質ホルモン,抗生物質,ビタミンB2などの点眼を併用します。紫外線は目(角膜)にとても悪いものですから,紫外線が強いときには必ずサングラスを装用するようにしましょう。

 

          

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