(2)視野異常

視野の異常には大きく分けて狭窄半盲暗点という三つの種頚があります。狭窄とは,視野の広さが狭くなるもので,視野全体が狭くなる求心狭窄と視野の一部分が不規則な形で狭くなる不規則狭窄とがあります。視野の右半分や左半分が見えなくなるのが半盲で,視野の中に見えない部分があるものを暗点といいます。またこれらは,網膜,視神経,視路の病気,緑内障,ヒステリーなどで起こってきます。

緑内障(glaucoma)

眼圧が正常眼圧を越えている状態を主な徴候とする疾患です。正常眼圧とは15mmHgで,10〜20mmHgが範囲とされています。ただしこの数値は平均値であるため,個人差があります。眼圧が25mmHgと高くても,それがその人にとって正常な眼圧であることもありますし,15mmHgでもその人にとっては眼圧が高く緑内障となることもあるわけです。そういった点で診断も非常にむずかしい病気ともいえます。眼圧が高くなる原因は,房水が流れ出る機構に問題があるわけです。房水は毛様体で産出され,後房から瞳孔を通って前房に入り,前房隅角から眼球の外へ排出されます。眼球内に入ってくる房水の量と出ていく量とが同じであれば眼圧は一定に保たれますが,前房隅角に異常があると房水がうまく排出されずに,前房や後房にたまりすぎ,眼圧が高くなります。眼圧が高くなると,その影響は眼球壁すべてにおよぶわけですが,強膜は強固なので,やわらかい角膜と視神経乳頭が被害をうけます。長い間視神経が圧迫されると神経は萎縮して,視野が狭くなったり(視野狭窄),視力が低下したりします。そして一度狭くなった視野や悪くなった視力は回復しません。また,視力より視野が先に障害されてきます。

 

  

1.慢性緑内障 

正常よりやや眼圧が高い状態が続いて,徐々に視野が狭くなり,視力も低下し最悪の場合は失明してしまいます。そういったことからも非常に恐い病気であるわけですが,けっして珍しい病気ではありません。40歳から50歳代までの人の約2%,60歳代では約6%,70歳以上では約13%の人に緑内障が見つかっているという報告もあります。ゆっくり進行するので,たいした自覚症状もなく,気付いたときにはかなり進行し,視野や視力がかなり障害されていたということも少なくありません。早期に発見し,早期に治療を開始することが大切で,そうすれば重篤な経過をとらずにすむことがほとんどです。目が疲れる,かすむ,頭が重いといった症状は,緑内障の初期に起こってくる場合があるので,ある年齢以上の人であれば十分注意する必要があるでしょう。また40歳以上の人は年1回程度の眼圧測定の定期検査を受けておくのもよいでしょう。

 

2.急性緑内障

急に眼圧が高くなり,頭痛,眼痛が激しく,吐き気があり,吐くこともあります。視力は低下し,球結膜は毛様充血のため赤くなります。急性禄内症は早朝に眼圧を下げる治療をすれば,はぼ元の状態に回復しますが,遅れると失明してしまいます。吐き気があるため内科に通院を続けそれから眼科へ来て治療が遅れたということも実際にあります。頭痛,吐き気がひどくて,目が充血し,かすんでいたら眼科へ行くようにしなければなりません。

 

3.先天性緑内障(牛眼)

前房隅角の形成異常が原因で,生後1年以内に発症するのがほとんどです。眼圧が高いため眼球自体が大きくなるので「牛眼」ともよばれています。角膜(くろ目)の直径も大きくなり,新生児で10.5mm以上,6ヵ月で11.5mm以上,1歳で12.5mm以上ある場合はこの病気を疑うべきです。また乳児でまぶしがる場合もこの病気の可能性があります。放置すれば失明してしまいますから,これも早期に治療(手術を含む)する必要があります。

 

4.続発性緑内障

ブドウ膜炎外傷などの他の病気があって,それに続いて起こる緑内障を続発性緑内障といいます。

 

緑内障の治療

緑内障は早期発見早期治療を行なえば大事には至りませんが,かといって「もう治療の必要はありません,治りました」ということもなく,眼科医と一生付き合っていかなければならない病気です。つまり,眼圧を常に上手にコントロールしていかなくてはならないのです。眼圧コントロールは点眼薬や内服薬で行ないます。これらを医師の指示通りに使用し,定期的に眼圧などの検査を受けます。日常生活では,コーヒー,アルコール類,お茶などの刺激物や水分の取り過ぎに気をつけ,目を疲れさせないようにし,血液の循環をよくするため過度の喫煙をやめ便通もよくするよう気をつけてください。また,首を圧迫するような服装は避けること,そして,イライラしたりストレスのたまらないようゆったりとした生活を送れるようにすることも大切です。しかし,このような方法でも眼圧がうまくコントロールできない場合は,房水の排出がスムースに行くような手術を行ないます。

緑内障の進展

狭窄

求心狭窄を起こしてくるものに緑内障,網膜色素変性症などがあります。不規則狭窄は,網膜剥離網膜出血のときなどに起きています。目の器質的な病気ではありませんが,ヒステリーでも求心性狭窄を起こしてくることがあります。

半盲

両眼視野の片側ずつが欠損することを半盲といい,網膜に映った像を脳まで伝える視路の障害によるもので,その部分に腫瘍があったり脳出血があったりして視路を圧迫している場合などに起こってきます。

暗点

視野のまわりの部分に暗点があっても気がつかないことが多いですが,中心部に暗点があるとすぐに気がつきます。これを中心暗点といいます。中心暗点があると当然視力も悪くなり,色覚もおかされます。中心暗点にも程度があり,まったく見えないものから,ぼやけて見えるといったものまでを総称します。中心暗点を起こす病気は,中心性網脈絡膜炎や,球後視神経炎などがあります。盲点が大きくなるのも暗点のひとつで,これは緑内障の初期,うっ血乳頭などのときに起こります。

 

中心性網脈絡膜炎(chorioretinitis serosa centralis)

中年男子によく起こる病気で,片眼性です。網膜の一番よく見える黄斑部に丸いむくみができるため,見ようとする中心部が見にくくなります。視力も低下しますが,ものがゆがんで見えたり,小さく見えたり,色が変わって見えたりすることもあります。原因は不明ですが,過労,睡眠不足,ストレスなどが誘因になっているようです。2〜3カ月で自然に治る場合もありますが,再発しやすいものですから,眼科医に受診すると同時に無理をしないはうがよいでしょう。

 

うっ血乳頭(choked disc)

脳腫瘍によって起こるもので,自覚的には,初期にはほとんど視力障害はないのですが,ときどき,急に見にくく感じることがあります。視野を検査すると盲点が拡大しています。進行すると,視力低下,視野の求心狭窄,視野欠損も現われ失明に至ります。脳腫瘍が原因ですから頭痛,嘔吐などの症状もあります。早期に発見し早期に治療しないと一命にかかわることもありますから,十分な注意が必要でしょう。

 

(3).複視(ものが二つに見える)

一つしかないものがこつに見える症状を複視といいます。複視には両眼複視と片眼複祝のこ通りあり,片目で見ると一つに見えるのに両目で見ると二つに見えるのが両眼複視で,片目で見ても二つに見えるのが片眼複視です。

 

(1)両眼複視

目を動かす筋肉が麻痺する眼筋麻痺が原因で起こってくることがほとんどです。眼筋麻痺を起こすと,眼球の動きが悪くなり,斜視の状態になります。生まれつき,あるいは幼児期に斜視になっている場合ではその状態に慣れているので複視は起きませんが,それまで正常だった人が急に斜視になるとめまいがしたり複視が起こり,視機能に混乱が生じます。眼筋麻痺は外傷,腫瘍,炎症などの目の病気の他に脳や神経,全身の病気でも起こります。その原因を治療しても複視が消失しない場合は眼科的に眼筋を短縮したり後転する手術をして治します。その他,斜視手術の後にも複視を訴えることがあります。

 

(2)片眼複視

水晶体が正常の位置からずれている水晶体脱臼や虹彩が切れている虹彩離断があると片目で複視が起こります。どちらも外傷が原因であることがほとんどです。手術をすることで治ります。これ以外に,乱視,白内障でも,複視を起こすこともあります。

 

(4).飛蚊症(黒い虫のようなものがみえる)

蚊のような黒い小さなものが目の前を飛んでいるように見えることから飛蚊症といわれています。スス,糸クズ,水玉,湯けむりといったような形であることもあり,色も黒いものから淡白く不透明なものまで,いろいろなものがあるようです。また,白い壁や青空を見たときによく見えたりします。これは硝子体中に濁りがあり,その影が網膜上に映ったものです。ちょうど硝子体を映画舘にたとえますと,映写機に近いうしろの人がタバコの煙を出すとそれがスクリーンに映し出されるのと同じ理由です。通常目を動かすとそれにつれて動いてきます。この症状のほとんどの場合はとくに心配することはないのですが,突然数が増えたり,大きくなったりした場合は網膜剥離などを疑いくわしく検査する必要があります。

 

硝子体混濁(opacitas corporis vitrei)

硝子体に濁りが生じるもので,軽度の場合は飛蚊症,強度の場合は視力障害が起こってきます。濁りの生じる原因にはいろいろなものがあります。強度近視の人や老人では,本来ゼリー状の硝子体が液状になることがあり,このとき,硝子体の線維が濁りをつくります。これを硝子体変性といい,この場合は心配はありません。しかし,網膜剥離の初期で起こる混濁には注意しなければなりません。徐々に網膜がはがれ,失明することもありますから,早期に発見することが大切です。急に飛蚊症が現われたり,いつでも見えたり,数が多かったりしたら注意してください。この他に,ブドウ膜炎,硝子休出血,後部硝子体剥離などでも混濁がみられることがあります。またこれといった混濁がなくても飛蚊症を訴えることもあり(生理的飛蚊症),この場合ではむしろ気にしないことです。このように,いろいろな原因で混濁が起きていますが,この区別は検査をしてはじめてわかることですから,気になるようなら一度くわしく眼科医に受診して,その原因をつきとめておけば安心でしょう。

 

 

(5)光視症

目の中で閃光を感ずるもので,視野の一部にキラキラしたものが見えたりします。網膜剥離などでも起こりますが,片頭痛を伴う場合は脳の血管が一時的にけいれんして起こる閃輝暗点というものです。若い人に多く,症状は数分から数十分で消えますが,その後片頭痛,悪心,嘔吐が起こってきます。脳の血管の病気が原因となっていることもありますが,特に異常のないこともあります。この場合,過労や睡眠不足などによるとされています。また,頭をゴツンとぶつけたときなどに「目から火花が出た」などといい,実際,パッと目の前が明るくなったような感じがします。これも光視症のひとつでしょう。これは,衝撃が網膜の視細胞を刺激し,光として感じてしまうために起こるのです。

 

(6)変視症,小視症,大視症

見ようとするものがゆがんで見えたり,小さく見えたり,大きく見えたりする症状です。網膜の中心部である黄斑部にむくみや剥離があると変祝や小視が起こります。中心性網脈絡膜炎や網膜剥離がその原因となる病気です。またヒステリーや脳の病気でもこの症状が現われることがあります。このほか,調節麻痺があると小視症,調節けいれんがあると大視症を起こすこともあります。

 

(7)虹視症

電灯のまわりに虹がかかったように見える症状で,角膜全体がなめらかでないときに光が乱反射して起こってくるようです。ビマン性表層角膜炎や目やにがうすく角膜についたときにも起こります。ですから,結膜炎でも虹視症は起こります。しかし,虹視症で気をつけなければならないのは緑内障の場合です。眼圧が高くなり角膜にむくみができるために虹視症が起こります。この場合,眼圧やその他緑内障の検査をする必要があります。

 

(8)色視症

参照 

 

(9)夜盲症

夜盲は暗いところでよく見えないという症状で,俗に「とり目」とよばれています。先天性のものでは,網膜色素変性症,後天性のものでは,白内障の初期,強度近視,ビタミンA欠乏症などが夜盲を起こしてきます。

網膜色素変性症

(degeneratio pigmentosa retinae)

遺伝による病気で,幼少時より夜盲が起こり,徐々に進行し20歳頃には視野狭窄,視力低下も強くなる場合と,30歳代になって夜盲や視野狭窄がゆっくり起こってくる場合とがあります。症状はどちらも,夜盲→視野狭窄→視力低下の順に進行し,現在のところ残念ながら確実な治療法はありません。ただ,病気の進行には個人差があり,若いうちにはほとんど失明状態になってしまう人もあれば,会社が定年になるまで仕事を続けられる人もあります。しかし,一応視力が不自由になることを前提に職業指導や訓練を受けることをおすすめします。

 

(10) 昼盲

夜盲の反対で,明るい所で見にくいという症状です。これは角膜や水晶体の中心部に濁りのある場合に起こります。明るい所では瞳孔が小さくなるため,濁りが光をさえぎって見にくくなり,逆に暗い所では瞳孔が大きくなるため,濁っている部分のまわりから光が入り,暗い所のほうがかえってよく見えるということになるからです。そのほか,全色盲,白子症などでもこの症状を訴えます。

 

 

          

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