ICL(眼内コンタクトレンズ)手術
ICL(眼内コンタクトレンズ)手術について
ICL(眼内コンタクトレンズ)
ICL(Implantable Collamer Lens)手術は、後房型フェイキックIOLのひとつで、眼球内の虹彩と水晶体の間(後房)にレンズを移植して近視や乱視を矯正します。
- レーシックに比べて光学的特性に優れており、より良好な視機能が期待できる
- レーシックでは対応できない強度近視や角膜の薄い症例に対応できる
- レンズの摘出・交換により、度数の変化に対応でき、元の状態に戻すことも可能
などのメリットがあり、”よりプレミアムな屈折矯正手術”と位置づけられています。
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ICLの素材
ICLはHEMAとコラーゲンの共重合体素材「コラマー(Collamer )」から作られています。「コラマー」は含有するコラーゲンにより、マイナス荷電を帯びており、タンパク質などの粒子が沈着せず、長期にわたって眼内で安定する、非常に生体適合性の良い素材です。
「コラマー」の素材表面は、ノングレア特性がありグレアを生じにくく、紫外線を90%以上カットする特性も備えています。
当院で使用しているICLは、STAAR 社によって開発されました。1997年にヨーロッパにてCEマーク(安全性)を取得。2001年にはカナダ、2002年に韓国、2005年にはアメリカFDA、すでに75カ国で認可を受けています。
日本では2003年より治験が開始され、2010年2月に厚生労働省で認可されました。2014年には光学部中央に孔のあいたHole ICL(KS-AquaPORT®)の承認を得ました。近年、急速に普及してきており、全世界で100万件以上の実績があります。
手術方法
手術は点眼麻酔でおこない、片眼10分程度で終了します。
- 散瞳剤点眼で瞳孔を開き、点眼麻酔をおこなったのち、黒目と白目の境目に数ミリの創口を作成。
- 創口から小さく折りたたんだICLを挿入して、虹彩と水晶体の間に固定。
- 切開創は糸で縫合することなく、眼内圧により自己閉鎖します。
- レンズは特別な手入れをしたり取り出したりする必要はなく、半永久的に眼内で安定します。
適応条件
- 適応条件
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- 年齢21歳以上
- 術前等価球面度数6.0 D以上の近視
(慎重適応3D以上6D未満の中等度近視および15Dを超える強度近視) - 術前1年以上屈折が安定している
- 禁忌(手術ができない場合)
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- 21歳未満の方
- 浅前房(2.8mm未満)および角膜内皮障害
- 妊娠中又は授乳中
- 目の病気のある方(白内障、緑内障、網膜疾患、虹彩/ぶどう膜炎、水晶体亜脱臼、偽落屑症候群など)
- 進行性円錐角膜
- 重篤な全身疾患をお持ちの方(重篤な糖尿病、膠原病など)
- コラーゲンに対する過敏症
- その他、全身的、眼科疾患を伴うこと等を理由として医師が不適当と判断した症例
※矯正視力が比較的良好で、かつ非進行性の軽度円錐角膜は慎重適応
レーシック、その他の手術方法との違い
ICLの利点
- レーシックでは矯正できない強度近視や角膜の薄い方、円錐角膜や角膜拡張症のリスクが高い症例も、施術が可能
- ICLは眼内コンタクトレンズによる眼内挿入の屈折矯正手術のため、角膜の厚みや形状の影響を受けません。
- 網膜像の倍率変化がほとんどみられない
- 眼鏡、コンタクトレンズ、レーシックでの近視矯正では、いずれも被写体側に近い方に凹レンズがあるため網膜投影が小さくなります。10Dの近視を矯正すると網膜像は眼鏡で約85%、コンタクトレンズやレーシックで97%に縮小します。
- 角膜反応の影響がなく、予測精度・安定性が良好。近視の戻りの心配もない
- レーシックでは約3%に術後の戻り等での再手術を行う場合がありますが、ICLでは術後の屈折値が安定しており、戻りが出ることはほとんどありません。
- フラップ作成による角膜知覚低下がないため、ドライアイを生じにくい
- レーシックではフラップ作成による一過性の角膜知覚低下でドライアイを生じるが、ICLでは起こりません。
- レーシックでは角膜中央部の切除により形状が平坦化し、球面収差(細かなひずみ)が増加するが、ICLで収差は変わらずコントラスト感度も良好
- レーシックでは角膜を削ることにより、角膜形状が平坦化することで高次収差が増大します。ウェーブフロント照射技術の登場により高次収差の増加は以前よりは大幅に改善されましたが、高次収差の増大によるコントラスト感度の低下や、ハロ・グレアといった夜間視機能の低下が出やすいとされています。
- レンズを取り出して元の状態に戻すことができる(レーシックは角膜を削るので元に戻せない)
- レーシックでは偏心照射、角膜拡張症(ケラトエクタジア)、難治性イングロース(フラップ下への角膜上皮細胞迷入)といった合併症を引き起こした場合には視力回復が困難な場合があります。ICLにみられる合併症は、ICLを取り出すことで元に戻せるものが多く、白内障(水晶体混濁)が生じた場合でも白内障手術で視力回復できるなど、いずれの合併症もリカバリーしやすいことが知られています。
- 前房支持型のフェイキックIOLと違い、レンズの偏位や脱落を起こしにくい
- 前房虹彩支持型のフェイキックIOLの場合、虹彩の支持部が萎縮してレンズが外れることがあるが、ICLの場合はレンズの偏位や位置ズレをおこしにくくなります。
ICLの欠点
- 価格が高い
- 手術に高度な技術を要する(ライセンス制)
手術のリスクと合併症
よくみられる一般的な症状
- 手術直後のかすみ・ぼやけ・まぶしさ・異物感・しみる感じ・充血
- 手術直後より視力改善は体感できますが、手術直後は全体的にかすんだり、ぼやけたり、充血したりします。1週間ぐらいまでの間に安定してくる方がほとんどです。
- 結膜下出血
- 創口や白目の血管から出血して目が赤くなることがありますが、手術後1~2週間で自然に消失します。手術の結果や目への影響も心配ありません。
- 角膜内皮細胞の減少
- 通常の場合、手術時に平均で約3%の内皮細胞数減少が見られますが、その後は安定します。
- ハロ・グレア・光のにじみ
- レンズの構造上、日中も夜間も光がにじんだり、光の周囲がぼやけて見えたり、周囲に光が入って見えたりすることがあります。やや残る場合もありますが、しばらくすると気にならなくなる方がほとんどです。
- 老眼(老視) (※概ね40才以上の場合)
- 手術を受ける・受けないにかかわらず、40歳頃から加齢に伴う調節力の衰えにより「手元が見にくい」といった老眼の症状がではじめます。その場合は近用眼鏡(老眼鏡)等を適宜に使用してください。
まれに起こる治療が必要な合併症
- 眼圧上昇/高眼圧
- 眼圧上昇がみられた場合、その程度によって降眼圧剤の点眼や内服を一時的に追加します。(発症率1%)瞳孔ブロックが原因となる場合にはレーザー虹彩光凝固をおこなうことがあります。
- ICLサイズの不適合、度数ずれ、位置ずれ
- ICLと水晶体の間隔が狭すぎたり(=Low Vault)、逆に広すぎたり(=High Vault)した場合、ICLが偏心固定した場合、軸が回転してしまった場合、手術後に過矯正あるいは低矯正となった場合などには、サイズや度数の違うICLへの入れ替え、位置修正などの再手術が必要になることがあります。(レンズの交換・摘出1.5%)
- 術後眼内炎
- ごくまれに手術後の感染性眼内炎を発症したケースが報告されています。(発症率0.02%)もし発症した場合は抗生剤の内服や点滴、程度によっては前房洗浄やICL摘出をおこなうこともあります。
- 白内障(水晶体の混濁)
- 視力に影響しない程度のものであればそのまま経過観察をします。もし進行して視力障害を生じた場合はICLを摘出して白内障手術をおこないます。(発症率2%、手術に至る率0.4%)
白内障は加齢とともに60~70 歳を過ぎると大多数の方にみられる病気です。もともと強度近視の人は、普通の人より10~20 年早く白内障になりやすいので、ICL手術をしなくても白内障になりやすいという面もあります。 - 26.5mm以上の長眼軸眼
- 目の長さが26.5mm以上の方で、30歳を過ぎても眼軸が延長し近視化することが10%程度報告されています。